２０２４年パリ五輪へ、泳げるセーヌ川を取り戻す

　今年もパリでは夏の恒例イベント「パリプラージュ（Paris Plages）」が開かれました。プラージュとは、フランス語でビーチの意味で、期間中はセーヌ川沿いにパラソルやビーチチェアが並べられ、人工ビーチで多くの市民が日光浴を楽しんでいます。以前は大量の砂を運びこみセーヌ川岸に本物そっくりのビーチが作られていましたが、環境面への配慮などを理由として、近年は芝生や木製デッキが利用されています。

[パラソルやビーチチェアが並ぶセーヌ川沿い]

　パリプラージュは、市民にとってパリの短い夏を満喫するための一大イベントですが、実はセーヌ川沿いにビーチが作られるだけではなく、他にも様々な催しが行われました。特に今年は東京で開催されているオリンピック・パラリンピック大会に合わせたスポーツプログラムも実施され、こちらについては現在も引き続き開催中です。会場となるエッフェル塔近くのトロカデロ庭園では、重量挙げやレスリングなどのオリンピック競技を体験できるアクティビティや、東京2020大会のパブリックビューイングなどが用意されています。８月８日のオリンピック閉会式でも、次の2024年大会の開催都市パリからの中継で、このトロカデロ庭園の映像が流されました。

[トロカデロ庭園。中央ステージではメダリストの祝勝会も行われました。]

　パリプラージュの中でもう一つの目玉となっているのが、パリ市内を流れる運河の中に設けられるプールです。運河（正確にはサンマルタン運河とウルク運河との間にあるヴィレット貯水池）の一部を区切ってプールが作られ、イベント期間中無料で市民に開放されています。プールの運営にあたっては、定期的な水質チェックが行われるほか、コロナ禍にあっては感染症の拡大防止のため２時間単位で入場時間を区切り入場者数を制限するなどの対策が採られています。 

[ヴィレット貯水池に設けられたプール]

　この取組は、パリでオリンピック・パラリンピックが開催される2024年までに、セーヌ川での遊泳を可能にしようとするパリ市の野心的なプロジェクトとも深く関連しています。セーヌ川は前回のパリ五輪が開催された前年の1923年、水質汚染による健康への懸念などから遊泳が禁止されました（※１）。その後、1990年に当時のパリ市長であったジャック・シラク氏（後のフランス大統領）が「セーヌ川の水質が改善されていることを示すため、自分はセーヌ川で泳ぐ」と公言したものの、残念ながら実現には至りませんでした（※２）。しかし、約30年の時を経て、アンヌ・イダルゴパリ市長が「パリで泳ぐ（Nager á Paris）」というプロジェクトを打ち出したのです。このプロジェクトに基づき、2024年大会ではトライアスロンやオープンウォータースイミングをセーヌ川で実施することが計画されており、環境政策に力を入れているパリ市にとって重要な大会のレガシー（遺産）として位置付けられています。

　パリ市を含む関係機関は、2016年よりセーヌ川委員会（le Comité Seine）を設立し、この水質改善プロジェクトに取り組んでいます。パリ市の担当副市長であるセリア・ブリューエル氏によれば、このプロジェクトは非常に困難ではあるものの、セーヌ川の水質は20年前に比較すると大幅に改善されており、1970年代には２種しか見られなかったセーヌ川に生息する魚の種類は、今では35種にまで増えているとのことです（※３）。次のパリ2024大会ではセーヌ川で泳ぐアスリートの姿が本当に見られるのか、更にはセーヌ川で泳ぐパリ市民の姿が新たな夏の風物詩となるのか、今後の展開が注目されます。