日欧地域連携年次会議 パネルディスカッション、クロージング
(4)パネルディスカッション
「デジタルトランスフォーメーション、グリーン・トランジションの観点から見た日欧地域連携の好事例、課題、可能性」
〇仙台市
仙台市産業振興課課長 荒木田 理 氏
Q. ヨーロッパ、特にフィンランドのICTやデジタル技術と連携して進めた「Bosai Tech Innovation」について聞きたい。2024年を目標にしているグローバル展開は、この技術を世界中に普及させる良い機会だ。課題ではあるが、この展開のための国際連携をどうやって加速させていくか。また、そのためのメッセージを、今日、この会議に参加したヨーロッパの地域やクラスターへお願いしたい。欧州側の参加者は、仙台市との将来的な連携協力を検討するためには、どうしたらよいか。
A. ・気象変動による災害の激甚化は国際社会が持つ共通の課題と認識している。
・2015年に開催された第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」の理念を社会に実装し、世界の災害リスクの削減に仙台市は貢献する事にコミットしている。
・その為には国際連携の枠組みを加速し、各国の災害に対応した新たなデジタル技術によるソリューションを開発し、世界に展開していく必要がある。
・今年の秋以降、防災の課題やそれを解決するICT(情報通信技術)ソリューションの情報共有、事業開発を促進するための、オンラインを中心とした防災テックオープンイノベーションプラットフォームを設置する。
・国や自治体、大学、国内外の企業の参画を呼び掛ける予定で本日この会議に出席頂いている日欧両地域の団体にも是非参加いただきたい。
・また、経済産業省と東北大学では防災のISO化に取り組んでおり、将来的にはこのプラットフォームから生み出されるソリューションの規格化も支援し、国際市場への展開を後押しする考えである。
〇エナジー・エージェンシーNRW(ドイツ)
インターナショナル・リレーション・ヘッド ステファヌス・リンカー氏
Q. 1月に開催した「EU・日本地域協力グッドプラクティス・ウェビナーシリーズ」で、福島県との素晴らしい連携関係を紹介してもらった。貴エージェンシーは、福島県のエネルギー・エージェンシー設立のモデルとなり、日本のこの地域における地域活性化とグリーン・トランジションの優れた例となった。グリーン・トランジションの枠組みの中で、日欧だけでなく、他の国々も含めて、この連携関係にどのようにして新しいパートナーが参入できるのか。今後の国際戦略は何か。
A.・通常は2国間関係であるが、他の地域から関心があるようならば、エージェンシーとして、我々と関係を築くことはできる。
・国際戦略は、3つの要素を持っている。1つ目に、政府機関等とMOUなどの政治的なフレームワーク構築が必要と考える。2つ目に、我々エージェンシーは、トランスフォーメーションのスペシャリストであり、一政府や一クラスターのためだけではなく、クラスター形成、インフラやソリューションの構築をより長期的に支援することだ。ビジネスの開発も重要視しており、サイエンスだけにフォーカスしているのではない。そして3つ目には、国際連携において、私たちのパートナーである中小企業をサポートすることである。
〇株式会社ANA総合研究所
「元気な日本」創生事業部執行役員 事業部長 藤崎 良一 氏
Q. 地域連携の枠組みの中で、グリーン・トランジション、デジタトランスフォーメーションへという観点から、ANAの戦略について教えていただきたい。
A. ・2019年10月に、Association of British Travel Agentという団体の会議をホストし、イギリスの旅行会社やメディア関係者といった500人ほどを日本に招いて開催した。ビジネスセッション、オープニングセレモニーなどを含む3日間のイベントで、東京エクスカーションや国内旅行を企画し、ゲストには旅行業界で働くエグゼクティブを迎えた。そのほとんどが日本を訪れるのは初めてで、日本の地方を紹介し、地域の活性化に貢献していることをアピールする絶好の機会となった。日本には多くの素晴らしい場所があるが、まだインバウンド観光客が訪れるまでに宣伝が十分でない場所も多い。京都、大阪、広島、箱根、金沢、福島、瀬戸内へ、私たちはそれらの場所を訪れる機会も提供した。
・会議では、持続可能性に関するガイダンスに沿い、プログラムや会議関係情報をモバイルアプリで提供しペーパーレスを促進したり、ペットボトルではなく、ボトル容器を配布し利用を推奨した。
・自分の国や都市で会議を開催した場合、今回も観光を学んでいる学生のボランティアが協力してくれており、地元の方々と一緒になって会議を創り、取り組めることは有益である。
・また、グリーン・サステナブルな活動の一例としては、国際民間航空機関に加盟しており、2010年に開催された会議では、CO2排出量に関する国際航空環境を促進するために、2050年までに燃料効率を毎年平均2%改善させ、2020年以降は温室効果ガスの総排出量を増加させないという目標を掲げている。この目標を達成するためには、新しい技術を導入する必要がある。つまり、航空機のエンジンのことを言っているのだと思うが、エネルギー効率の良い航空機を使用したり、飛行計画を改善したり、フライトの高さを改善したりすること等である。
・また、燃料の新エネルギーへの転換においては、新エネルギーのコストが高いという大きな課題がある。経済的な側面も考えなければならない。そこで、カーボン・トレード、CO2を排出する権利についての話が出てくるが、これにはいくつかの問題があり、今年からその問題に取り組む予定である。ご存知のように、私たちは非常に厳しい状況にあり、このCO2のトレード権は、会社の経営に大きな影響を与えるが、今後、極めて重要な点であり、最大限取り組んでいく。
〇岐阜県
岐阜県観光国際戦略アドバイザー 古田 菜穂子 氏
Q.デジタル・トランジションの動きの中で、岐阜県が今後のサステナブル・ツーリズムに期待していることを、もう少し詳しく教えていただきたい。
A.・ダヴィンチコードのカメラマンチームが作成した動画は大変好評で、1年で1万回再生されており、デジタルトランスフォーメーションの取り組みに利用している。動画が見られるWEBサイトにすべての事業をリンクさせ、単なる観光地の紹介だけではなく、「体験」、「宿泊」、「食」の予約及び「モノ」の購入ができるようになっている。
・また、このデジタル・マーケティングを活用して、各サイトへのアクセス件数や予約・購入データ等を分析し、今後のより効果的なプロモーションへと繋げている。
・これらの取組みにより、アフターコロナにおいても、岐阜県の強み(魅力)であるサステナブル・ツーリズムの推進と県産品の海外輸出の双方で効果をあげていきたい。
〇アルファRLH(フランス)
インターナショナル・ヨーロピアン・プロジェクト・マネジャー イザベル・トヴェナ・ペコー氏
Q. カナダ、アメリカ、中国の3つの輸出市場で、中小企業の国際化をサポートするとお聞きした。第三国での戦略はどのようなものか。中国と日本のオフィスの間にシナジー効果があると考えるか。言い換えれば、あなたのメンバーやパートナーは、EU+日本+中国または米国の多国間プロジェクトに参加できるか。その場合、デジタル及びグリーン・トランジションの枠組みの中で、今後のプロジェクトとして注目する主な分野は何か。
A. ・私たちには、2つの主要なテクノロジー事務所があり、1つ目はフォトニクス・レーザー、2つ目はエレクトロニクス・マイクロ波に関するものである。これらの技術は、スタートアップ開発の初期段階にあり、世界とのつながりや市場を視野に入れている。アメリカ、中国、日本に新しいオフィスを開設し、戦略を持っている。まずは、中小企業や研究所が海外に出るように動機づける必要がある。我々は、輸出活動や共同プログラムに必要なすべてのステップをサポートしてきた。我々は、ヨーロッパの共同プロジェクトを中心に活動している。この戦略では、PMAP+プロジェクトを実施しており、中小企業や大企業の国際市場への進出やイノベーションの支援を目的としている。国際的なターゲットとしては、中国、アメリカ、カナダ、日本としており、国際的ロードマップを作成しようとしている。日本でオフィスを開設することを決めた際には、我々は、中国と日本の間での混合あるいは補完的なミッションを考えていた。
・Photon Hub Europeというヨーロッパのプロジェクトでは、中小企業を支援し、フォトニクスの導入、イノベーション、投資を促進することを目的としている。フォトニクスは、新産業やインダストリー4.0の原動力となるアプリケーションに不可欠であり、現代の巨大な世界構造や環境問題に根本的に取り組むためには、非常に重要なものである。
・我々は、あらゆるヨーロッパのコミュニティと日本との間に橋を架けることを目指している。また、国際的には、国際ビジネスコンベンションを2年に1度開催している。通常はボルドーで開催され、2022年には、このコンベンションに皆さんを招きたい。
・我々のヌーヴェル・アキテーヌ地方には、パートナーがおり、このつながりはヨーロッパにも広がっており、中小企業や研究所にとって戦略的な国内および国際的なネットワークもある。
〇茨城県
茨城県営業戦略部国際ビジネス推進監 綿引 伸一 氏
Q.茨城県には日本で研究施設が最も集積している事実に基づいて、グリーン&デジタル・トランジションの観点から、県は将来に向けてどのような戦略をとっているのか。ヨーロッパの地域のステークホルダーやエコシステムは、どのようにして茨城県の戦略と関連したり、県や県のクラスターと共にプロジェクトを始めることができるのか。
A.・茨城/つくばでは、日本有数の研究機関集積地としての利点を活かし、サイエンスシティーを目指しており、IOTやAIなどのデジタル技術を産業や医療分野の技術開発に活用し、社会実装を目指す具体的なプロジェクトを進めている。
・まず、「つくばデジタルバイオ国際拠点」プロジェクト。このプロジェクトの目的は、つくばに集積している世界最大級の様々な「バイオリソース」と「デジタル技術」を融合・駆使して学際的な研究を行ない、世界最先端のバイオエコノミー社会を作り出すことである。さらに、研究で終わらせるのではなく、研究成果を製品として開発し、社会実装まで目指している。
・このプロジェクトには、筑波大学を中心として、研究機関、民間企業、行政など様々な機関が参加しており、外資系企業の参加を歓迎する。
・また、「つくばスーパーサイエンスシティ構想」も動き出している。スーパーサイエンスシティとは、AI やビックデータ等の未来技術を活用することで、生活の中の「困りごと」の解決を図り、暮らしを支える様々な最先端サービスを地域に社会実装していく取組。すでに、実証実験フィールドの提供を開始しており、公道での電動車いすの自動運転実証実験のサポート等を行っている。
・このほかにも、日本第3位の農業県としての特色を活かして、「スマート農業」の普及に向けた実証事業を進め、ロボットや人工知能(AI)を農業に取り入れることで、農家の担い手不足の解消や収益向上を目指している。
・これらの県内における科学技術とデジタルを融合した戦略を世界に向けて発信するため、これまでに G7 科学技術大臣会合や G20 貿易・デジタル経済大臣会合をつくばで開催し、EU をはじめ世界との協創を目指している。この取組にご関心がある欧州のクラスターや企業は、ぜひ茨城県まで連絡してほしい。
(5)クロージング セッション
〇日欧産業協力センター専務理事・駐日欧州連合代表部 公使参事官
フィリップ・ドゥ・タクシー・ドゥ・ポエット氏
・産業クラスター、地域、都道府県、都市、地域エコシステムの中で行っていることは、非常に重要で有益なことだと考えている。なぜなら、経済成長、雇用、富をもたらすために必要な主要な利害関係者、すなわち、中小企業、新興企業、そして大企業、中小企業と大企業のつながり、研究者、地元の政策立案者、銀行やベンチャーキャピタルなどの密接な関係の恩恵を受けているからである。
・物事がローカルレベルで実際に起こっていることを繰り返すことは、起業家精神、技術移転、科学の利用、技術や産業の成長を考えると、非常に重要である。地域のエコシステムはローカルなものに留まらず、ほとんどが初めからグローバルな視点を持っている。だからこそ、我々は日欧産業協力センターとして、日欧のローカルエコシステムのつながりを促進しようとしている。企業はいつまでも小さいままでいたり、生まれた地域に留まっていたりすることはできず、グローバルな視点を持ち、そのためにはグローバルなパートナーシップが必要である。ある意味、日欧産業協力センターが皆様をつなぐ理由は、こうした地域のエコシステムを日欧間でつなぐことで、日欧の新しいビジネス協力の基盤を築くことができるからであり、それが最終的な目的である。
・我々が注目して提案したいのは、グリーン・トラジションとデジタルトランスフォーメーションである。農産物の分野は、日欧経済連携協定の中でも最も重要な分野のひとつであり、日欧にとって非常に重要なことである。また、バイオテクノロジー、医薬品、健康分野は、パンデミックだけでなく日本やヨーロッパのいくつかの国は高齢化が進んでいるため、この高齢化した人口をどのように管理するかという問題や、健康は非常に重要な分野である。そして、持続可能な観光も強調したい。日本でも観光産業はますます重要になってきているが、時としてマイナスの影響を与えることもあり、注意しなければならない。
・今回の会議及びマッチメイキングでは、ヨーロッパのクラスターと日本のクラスターを結びつけ、双方の状況の現実を考慮しながら、特に日本では、都道府県の重要性を考慮しながら、議論の機会を提供したい。このように、ヨーロッパと日本の関係者が橋渡しをして、つながりを持ち、議論し、会うことができる可能性を与えることは非常に重要である。ある意味では、これはヨーロッパで何年も前からEU加盟国間で行われていることであり、日本にもこの地域主体の地域エコシステムのネットワークを拡大していきたい。
・将来のために2つの点について考えていただきたい。一つは、日欧産業協力センターでは、日欧のヴルカヌスというプログラムがあり、ヨーロッパの若い人たちが1年間日本に来て、産業界で働いており、とても人気があるところだ。産業クラスターや地域、県などがお互いのことをもっと知るために、こうしたピープルモビリティ制度が役に立つと思うか。もしそれが役に立つならば、ヨーロッパのあるクラスターから日本のあるクラスターへのモビリティの可能性がある場合、どのようなタイミングが良いのか、どのくらいの期間が必要なのか、また、ヨーロッパから日本へ、あるいは日本の地域からヨーロッパのクラスターへ行く機会を持つ参加者のプロフィールはどのようなものなのか。「人のモビリティについて、クラスターと都道府県のための可能な移動スキームをどのように設計すべきか」、これが一つ目の質問である。
・二つ目の質問は、すでに数年前からヨーロッパと日本の間で実施されている、いわゆるビジネス・ラウンドテーブルに関連するものである。ヨーロッパと日本の企業のグループで、ほとんどが大企業だが、最近は中小企業も増えている。このビジネス・ラウンドテーブルには、さまざまなビジネス組織が参加している。例えば、デジタル・ヨーロッパのように、ヨーロッパのデジタル分野の何百もの企業を代表するビジネス組織もある。そこで、皆様が産業クラスター、都道府県、地域のエコシステムの中で多くの企業や中小企業をホストしていることを考えると、ヨーロッパや日本でホストしている企業を代表して、ビジネス・ラウンドテーブルに参加する可能性をどう考えるか。この2つの質問、将来に向けたアイディアについて、今でなくて構わないので、ご意見があればお聞きしたい。