パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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新型コロナウイルスとフランスにおける医療物資の戦略的備蓄(3/3)

新型コロナウイルスに関するフランスにおける医療物資の戦略的備蓄と備蓄戦略に関する政府の管理状況を巡る議論について、公的機関による報道資料および各種メディアによる報道を基に、3回に分けて、取り上げ紹介する。(第3回目)
なお、本稿は2020年5月20時点における情報であることに留意していただきたい。

 前回まで

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(1)フランスの医療分野では誰がどんな役割を持つか
(2)危機管理と戦略的備蓄
(3)新型コロナウイルス禍の直面下における戦略的な備蓄状況
(4)備蓄の減少とリスク管理に関する論争
(5)国の措置
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(6)地方自治体の役割

(1)にて述べたとおり、フランスの医療政策の主は国の権限であり、地域における医療の提供確保は、連帯・保健省の下に置かれる地域保健庁(ARS)によって行われている。ただし、危機的状況下において、ARSは、病院への防護具配布を重視したため、障害者施設や高齢者施設、在宅介護従事者への配布が十分になされなかったことから、こうした福祉分野において地方自治体が重要な役割を果たすこととなった。

国との調整に難航したのち、例えば、2020年5月14日時点で、各州は、県やコミューン間広域行政組織と連携して、1億2,000万以上のマスクを発注している。また、地方自治体は、自らの行政区域内における在庫徴用、寄付を募り、企業やボランティアによるマスク、消毒用アルコールジェル、ガウン等様々な防護具の地元生産も奨励した。これらの活動は、障害者施設や高齢者施設、在宅介護従事者への優先配布に焦点が置かれている。

4月13日のテレビ演説において、大統領は、外出規制緩和開始の見通しに伴い住民にマスクを配布するよう自治体に要請した。また、国は、2020年4月13日から6月1日までの間に地方自治体が購入したマスクの購入経費の50%(上限価格の範囲内)を負担することとされている。

(7)避けられないリスクマネジメント改革

新型コロナウイルスの感染拡大は、フランスのリスク管理の深刻な欠陥を明らかにしたと言える。5月4日のExpress紙において3人の医学教授が「フランスは、GDPの11%以上を厚生分野に費やしているにもかかわらず、隣国ドイツのように国民や医療従事者を効果的に保護することができていない。その違いは明らかであり、かつ屈辱的である。フランスの地方分権改革は効率性実現の手段としてのみ育まれている。」と痛烈な批判を掲載した。
フランス地方行政管理職協会(AATF)のファビアン・テイスト会長は、「公立病院における唯一の思想は経営合理化であり、それはGDPにおける厚生費支出割合やスタッフ数の制限を意味する。これは、将来の官僚によってすぐに正されなければならない原理である。」と述べている。また、行政間の連携の欠如や、他の機関に対する行政の責任の放棄なども指摘の対象となっている。
国の不十分な対応により住民への新しいサービス提供を余儀なくされた地方からは、厚生分野における責任の再定義や権限移譲を求める声も上がっている。
医療物資の備蓄に関しては、まだ議論を深める時期には至っていないが、自治体専門誌「Courrier des maires(市長への手紙)」によると、「アジャン市長ジャン・ディオニス・デュ・セジュール氏(Modem)は、備蓄がコミューンにより管理されるべきと主張する一方、シャトールーの市長(LR)であるジル・アヴェル―氏は、県レベルで管理される備蓄拠点を国が設立することを望んでいる。」とされている。
最後に、生活必需品や医薬品、個人防護具に関する外国(特に中国)への依存は、フランスにとって大きな課題となっている。アニエス・パニエ=ルナシェ国家経済担当副大臣(Secrétaire d’État auprès du ministre de l’Économie et des Finances)は、「この危機は、もはや必需品のアクセスを単一の国に依存できなくなったことを示している」と認めた。
また、大統領も4月13日のテレビインタビューにおいて、「フランスの農業、厚生、産業、テクノロジー分野の独立性を再構築しなければならない」と述べている。

(参考)新型コロナウイルス感染症発生後のフランスのマスク調達

フランスでは、新型コロナウイルス感染症が発生した時点での国によるマスクの備蓄は、サージカルマスクが1億1 700万枚であった。しかしFFP2マスクの備蓄はなかった。

1. 新型コロナウイルス感染症発生から3月までの状況

フランス政府が新型コロナウイルス感染症への対応を2020年1月2日に開始して以来、政府が取った対策のうち、マスクの発注に関しては政府のサイトに以下の記述がみられる。

2月24日 数百万枚の医療関係者用FFP2マスクを注文。
3月21日 オリヴィエ・ヴェラン保健大臣が2億5,000万枚のマスクを発注したことを発表(順次納品)。
3月28日 約10億枚のマスクの発注を政府が発表。

またヴェラン保健大臣は3月21日に行った記者発表の際の演説において、マスクの調達状況に関して次のように述べている。

• すでに約2億5,000万枚のマスクを発注。
• 個人、機関団体、企業からマスクの提供を受けた。
• 2月末には医療機関に1,500万枚のサージカルマスクを提供。
• 大統領の要請に基づき3月3日から全国のマスクの在庫と今後の生産分を全て徴用することを決定。
• 3月初めから2,500万枚のマスクを医療機関、市中の医療従事者、福祉医療施設関係者、医療搬送従事者にマスクを配布。
• 3月17日と18日にはFFP2マスク160万枚とサージカルマスク1,070万枚をコロナウイルス感染者および感染の疑いがある者と接触する市中の医療従事者(医師、看護師、歯科医、薬剤師等)に配布。
• 数日前には、感染者数が多いグラン・テスト州やイル・ド・フランス州等の医療機関へマスクを配布。それとは別に、全国の他の医療機関と全ての福祉医療施設へのマスクの配布が3月20日に行われたほか、近日中にもう1回の配布が予定されており、これら2回の配布の枚数は1,700万枚。
• 2月の最終週から今までに7,000万枚のマスクが市中の医療従事者、病院、要介護高齢者施設に配布されている。
• 全国のマスクの在庫と今後の生産分の徴用により、2月末から4,000万枚のマスクを追加で確保。
• 現時点(3月21日)で国が有しているマスクの備蓄は、
FFP2マスク 500万枚
サージカルマスク 8,100万枚
政府としては、毎週2,400万枚のマスクの消費があることを想定。
• 新型コロナウイルス感染者の治療にあたる医療従事者にマスクを配布することで医療従事者の安全が確保され、その結果として患者の生命が救われるという考え方から、マスク配布は医療従事者への配布が最優先される。市民に関しては安心感を得るためにマスクを必要とする者と、高齢者や健康の問題を抱える者など病気から身を守る必要がある者とでは、後者が優先される。そのため、マスクの配布は、マスクがどうしても必要な者を優先し、今後のマスク配布は市中の医師(開業医)、臨床生物検査技師、看護師には1週間1人あたりFFP2マスクを含む18枚のマスクを配布、薬剤師にはサージカルマスクを1週間1人あたり18枚、というように枚数を定める。

2. 外出禁止令解除後のマスクの配布

政府は、5月11日の外出禁止令の解除後も、新型コロナウイルスの伝播を最大限防止し、社会活動の再開を促すため、国によるマスクの配布を続けることとした。

国によるマスクの配布の目標枚数は、毎週1億枚とされる(ただし調達状況による)。これにより医療従事者と福祉医療従事者には従前よりもより多い枚数のマスクが配布されるほか、ウイルス感染患者や重症免疫不全症の患者等もマスクの配布を受けることができることとなった。

医師、歯科医、臨床微生物検査技師、看護師、PCR検査技師には1週間1人あたり24枚、また薬剤師、助産師、診療放射線技師、調剤士等は1週間1人あたり18枚の配布を受ける。新型コロナウイルス感染患者には、1週間あたり14枚のマスクが配布される。

以上