パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

A+ A A-

コロナ禍がSDGsに及ぼす影響とフランス自治体の取組について

 2015年9月の国連サミットで、「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されてから5年近くが経過した。SDGsは、先進国も含め、経済、環境、社会の3つの柱に17のゴールを掲げ、タテワリでなく総合的に取り組むことにより、持続可能な発展を目指すものであり、これまで日本やフランスを始めとする世界各国の政府、自治体、企業などが、SDGsの達成に向けて取り組んできた。

 その折に突如現れ、全世界で猛威を振るい日常生活、世界経済、社会構造に危機をもたらしている新型コロナウイルス(COVID-19)は、SDGsの取組にも影響を及ぼすことが見込まれている。その多くはマイナスの影響と見込まれているが、一方で、分野と期間によってはプラスの影響が見込まれているものもある。その一つが環境分野である。

 国連が2020年3月に発表した「共有される責任、世界的な団結:COVID-19が社会経済に与える衝撃への対応(SHARED RESPONSIBILITY, GLOBAL SOLIDARITY: Responding to the socio-economic impacts of COVID-19)」では、COVID-19による長期にわたる世界経済の減速は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と「気候変動に関するパリ協定」※の達成に向けた取組に悪影響を及ぼすと指摘し、予想される影響の一部として、SDGsにおいては、特に13のゴールへの影響について分析している。例えば、ゴール2(飢餓をゼロに)については「食糧生産と流通が混乱する可能性」、ゴール3(すべての人に健康な生活)については「健康上の成果に対する壊滅的な影響」、ゴール8(持続可能な成長や人間らしい雇用)については「経済活動の中断、所得の低下、特定の職業の失業」といった影響が見込まれ、ゴール11「持続可能な都市」では人口の集中や劣悪な医療環境でスラム街などが高いリスクにさらされるといった影響が生じ、他の目標への影響とも相まってゴール10で取り組む不平等が拡大するといった分析もある。

 この中では、ゴール13(気候変動)への影響について、短期的にはプラスの面も指摘されている。コロナ禍により、気候変動対策への取り組みは減少するが、経済活動の停滞により、生産と輸送が減少するため、多くの地域でCO₂排出量と汚染が削減された結果、短期的に環境への負荷は少なくなるので、プラスの影響を受ける可能性があるというものである。ただし、これもコロナ禍が収束し、世界経済が再開した後、各国が持続可能な開発へのコミットメントを実現しなければ、そのようなプラスの影響は短命に終わるとされ、例えば、各国がSDGsと気候変動への取り組みに焦点を合わせ、復興時には、より包括的で持続可能でしなやかな未来に向けて社会が進むよう投資を行うなど、この好影響が継続するための取組が必要といった指摘がされている。

 この指摘を裏付ける事実が、クレアパリ事務所が位置するパリ市で確認された。例えば、フランス全土での3月17日からの外出制限令施行後、自動車の交通量減少や産業活動の後退により窒素酸化物の排出量が60%以上減少し、パリ市を含むイル・ド・フランス州において大気の質が約20~30%改善したことが報告されている。また、大気以外にも、交通量の減少が幹線道路付近の騒音を5~10dB低下させ、夜間の騒音も9割近く低下した。また、オフィスや店舗の閉鎖により、地区によっては水の消費量が1日あたり約20%、パリ市内では、電力消費が1日あたり約20%、都市ガスの使用量が1日あたり約10%それぞれ減少した。さらに、人がいなくなった街では野生動物の活動が活発化し、パリ市内でもマガモが環状高速道路沿いや街路を歩き、キツネやテンが姿を見せる様子が報じられた。こうした状況から、パリ市において環境改善の効果が得られたことは明確である。

 もともと、パリ市は、SDGsに関連する取組として、ゴール13に関して、環境対策に非常に熱心に取り組んできた自治体である。イダルゴ市長は、C40(気候変動対策に取り組む世界96都市により構成されるネットワーク)の議長を2016年から2019年まで務め、世界各都市における環境面での取組を牽引してきた。

 同市はパリ協定の目標を実施に移すべく、2007年に策定した「パリ気候計画」を2018年に改訂し、より野心的な新たな目標を定めた。カーボンニュートラルを達成するため、2050年までにエネルギー消費を現在の半分に減らし、また全てのエネルギーを再生可能エネルギーとすることを目指すとともに、同計画においては2030年までに実施するべき建造物、交通、エネルギー、廃棄物、生活環境等、さまざまな分野における500の政策と、2050年にあるべきパリ市のビジョンが示されている。

 またパリ市は、同計画の実施の一環として、市内の企業との協力を目指し「パリ気候行動憲章」を策定している。同憲章が誕生したのは2012年であるが、2018年のパリ気候計画の改訂に伴い、憲章も改訂された。同憲章の署名企業は、自らの取り組みに関する誓約の度合いにより、プラチナ、ゴールド及びシルバーの3つのレベルにわかれる。企業活動によるCO₂排出量の削減の目標等、具体的な取り組みは定めないが、エネルギーや気候に関し貢献している企業のネットワークに参加することで情報を得て自らの行動に繋げたい企業にはシルバーレベルが認められるのに対し、ゴールドレベルは、選択したSDGsに関して質的、量的目標を定め、それらの目標達成のための行動を取る企業にしか認められない。また、プラチナレベルの企業として認められるためには、ゴールドレベルに必要な条件を満たしているだけでなく、パリ市の、パリ協定に基づき温度上昇を抑制することを目的とした1.5℃戦略に貢献するために、2030年に向けた気候変動対策実行計画を策定しなければならない。同計画には2~5年間における、企業活動により排出されるCO₂等の温室効果ガスの量の削減に関する数値目標が含まれる。

 これら3つのレベルはそれぞれの企業の取り組みに対して付与されるラベルともなり、企業にとっては気候変動と1.5℃戦略への積極的な貢献をアピールすることができるものである。また、憲章の署名企業は「署名者クラブ」の会員として、経済活動分野別に情報交換を行うほか、年に1回開かれる総会に参加し、取り組みにあたって必要とされるツールや、年に3、4回開催されるテーマ別会議で扱うべき問題等について意見交換を行っており、これらの会合は署名企業の密接な関係構築に役立っている。これまでに同憲章に署名した企業・団体の数は65にのぼり、3社がプラチナレベルのステータスを有している。

 これらに加え同市は、2016年から大気汚染対策の一環としてセーヌ川河岸道路の一部区間や、毎月第1日曜日のシャンゼリゼ大通り(2018年にはパリ1区から4区にも拡大)における車両通行を禁止し、さらに2017年には、パリ五輪が開催される2024年までにディーゼル車の使用を段階的に禁止、従来型のガソリンエンジン車についても2030年を目途に禁止する目標を発表するなど、ここ数年だけで多くの施策に取り組んでいる。

 このように、従前よりパリ市がSDGs達成に向け育んできた環境対策の土壌が、コロナ禍における外出制限をきっかけとした環境の改善というプラスの影響の増幅につながったともいえるかもしれない。

 国連の指摘にもあるように、この効果を持続させる観点からも、パリ市は、外出制限が段階的に解除され始めた5月11日以降、ルーブル美術館、チュイルリー公園脇の目抜き通り、リヴォリ通りをはじめ、鉄道の主要駅、学校周辺など30ほどの通りにおいて、自転車レーンのさらなる拡充整備を行った。これは、感染症対策で社会的距離を確保するため、公共交通の混雑を緩和する一方で環境負荷の高い自動車通勤の増加を抑制し、自転車の利用者を増やす施策である。同時に、パリ市を囲む環状道路沿いにはパークアンドライド向けに駐車場を2~3倍に増やし、市内に入る自動車を減らすとともに、パリ首都圏の交通定期所持者の駐車場利用を無料とするなどの施策も講じている。これらは、コロナ禍を受けた社会的距離が必要な社会において、かえって自動車交通が増える可能性もある中で、SDGsのゴール3(すべての人に健康な生活)とともに大気汚染対策としてのゴール13(気候変動)を複合的に捉えて取り組まれていることは言うまでもないだろう。

 フランス政府においても、4月23日に改定された「エネルギーと気候変動のためのフランスの戦略」(Stratégie française pour l’énergie et le climat)が環境連帯移行省より発表され、政府が、新型コロナへの様々な対応が必要な現状においても地球温暖化と戦うための政策を進める姿勢を示した。もともと2018年11月に発表された本戦略は、パリ協定を踏まえ2050年までにフランス全体でカーボンニュートラルを目指すものであり、フランスにおける気候変動対策推進のためのロードマップとして2015年に定められた「国家低炭素戦略」(La Stratégie nationale bas-carbone )と、同じく2015年に策定され、エネルギー分野で今後10年の間に公的機関が取るべき行動の優先順位を示した「中期エネルギープログラム」(La Programmation pluriannuelle de l’énergie)の二つから構成されている。今回の改定では、2019年11月に公布された「エネルギー・気候法」(Loi énergie-climat)を踏まえた内容とされ、今後もEUでの議論や市民気候会議の提言も含めていく予定とされている。

 このように、今回のコロナ禍をきっかけに、あらためてSDGsが取り組むべき様々な課題が相互に密接に影響を及ぼすことが明らかとなり、SDGsの達成に向けてはそもそもの柱となっているが、分野間、目標間で横断的、総合的な取り組みが必要であることが明らかとなった。環境分野においてもゴール13にプラスに働いている環境への影響を短期のものとして終わらせず、持続させるために、パリ市の自転車道整備などの公共交通政策のように、自治体、政府が主導する長期的な施策により、他のSDGsもにらみつつ総合的に進めることができれば、SDGs達成への大きな前進につながる可能性もあると考えられる。パリ市及びその他のフランス自治体の今後の取組及びその成果に期待したい。

 

※  「気候変動に関するパリ協定」

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と同じく、2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)において採択された協定。2020年以降の温室効果ガスの排出削減に向けて、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことを世界共通の目的として、各国が取組を求められるものであり、SDGsのゴール13と密接に関係している。

IMG20200517111908

自転車レーンが拡幅されたリヴォリ通り

IMG20200519090657

IMG20200608085511 01

以前より自転車の通行量が増えた印象のあるリヴォリ通り