パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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新型コロナウイルスから労働者の安全を守る「撤退権」=ルーブル美術館が休館

 新型コロナウイルスの感染拡大により、世界最多の入場者数を誇るルーブル美術館が3月13日より無期限の閉館を発表しました。政府による「100人以上の集会の禁止」を受けて閉館に踏み切ったものとされています。

 今回の閉館措置がとられる直前の3月1日から2日にかけても、同館は臨時休館しました。新型コロナウイルスへの感染を恐れた職員らが、労働法で認められている「撤退権(droit de retrait)」を行使し、就業拒否を行ったためです。

 2月29日、コロナウイルスのフランス国内での感染拡大を防ぐため、政府は「5000人以上の規模で行われる屋内(限られたスペース)でのイベントの禁止」を発表しましたが、美術館の営業は禁止対象外でした。

 ルモンド紙によると、3月1日に同館の職員ら300人が集まり、ルーブル美術館は限られたスペースに5000人以上が集まる場であるとして、ほぼ全員が撤退権を行使することに賛成したようです。なお、ルーブル美術館の昨年1年間の来場者数は960万人超であり、1日あたり2万5千人以上が来訪している計算になります。職員の就業拒否により、同館は1日の休館を余儀なくされました。職員は、アルコール消毒剤の導入や、レジ担当職員と来場者を隔てるガラスの設置などを要求したとされています。

 職員からの要求を受けて、2日に安全衛生労働条件委員会(仏:Comité d'hygiéne, de sécurité et des conditions de travail(CHSCT)が開催されました。

CHSCTは、50人以上の職員がいる団体に存在する職員の代表組織です。特に衛生、健康、安全の観点から職員を守ることを目的としており、その他、労働条件の改善にも関与しています。

 ルーブル美術館の経営陣はCHSCTとの協議の結果、すべての職員にアルコール消毒剤を配布すること、来場者の入館にあたり、職員は来場者から距離を取りつつ入館検査を行うことができるようにすること、またチケット売り場では現金の取り扱いを中止すること等の対応策を講じたとし、3日の通常休館日を経て4日から営業を再開していました。

 今回のように、労働者が職務において、自らの生命や健康に差し迫った危険があると判断した場合、その就業を拒否したり、その職場を放棄したりできる「撤退権(droit de retrait)」が、フランスの労働法L4131-1条に定められています。具体的な内容は下記のとおりです。

・労働者は、生命または健康に重大かつ差し迫った危険があると考えられる合理的な理由がある場合、および防護システムで欠陥が発見された場合、直ちに雇用主に警告すること

・労働者はそのような状況から撤退できること

・雇用主は、特に防護システムの欠陥に起因する深刻かつ差し迫った危険が続く労働状況で、撤退権を行使した労働者に、活動を再開するよう求めることはできないこと

 具体的には、安全基準を満たしていない車両や作業機器などを使用する作業や、防護具に欠陥等が見つかった際に撤退権を行使できるとされています。

どの程度の状況が生命や健康の危険であるかについては従業員の判断に任せられており、従業員は危険があることを証明する必要はありません。また、撤退する際は、雇用主からの許可は不要で、従業員は何らかの手段で撤退権の行使を通知するのみでよいとされています。

なお、合法的に行使された撤退権であれば、雇用主は従業員に対し、解雇する、賃金から撤退期間に係る額を控除するなどの制裁を与えることはできません。

 このように撤退権が従業員の安全を守る権利として認められているフランスですが、世界一の入場者数を誇るルーブル美術館が、職員の就労拒否により臨時休館したことは観光客らに大きな衝撃を与えました。

 ルーブル美術館での臨時休館騒動が終了した3月5日、政府は新型コロナウイルスのために撤退権を行使することができる条件を発表しました。雇用主が政府のコロナウイルスに対する推奨事項(感染リスクの高い地域への出張を避ける等)を実施していない場合、同権を行使できるとしています。一方で、雇用主が推奨事項を実施している場合、原則として、労働者は職務上「深刻で差し迫った健康への危険がある」とはみなされないとのことです。

 ルーブル美術館は4日の営業再開後、同館公式ホームページ上に新型コロナウイルスに関する来訪時の注意事項を記載する等の措置や、入館者の人数制限を行いつつ営業していました。しかしその後、フランス国内での感染拡大により、3月13日にマクロン大統領が発表した「100人以上の集会の禁止」とするなどの対策を受け、同日18時以降、無期限で閉鎖されることになりました。その他、エッフェル塔やヴェルサイユ宮殿などの多くの観光名所も閉鎖を発表しています。

 その後、3月17日からは15日間の原則外出禁止措置がフランス全土で適用され、街角から人影が減少していますが、自ら記入した外出証を所持して食料品等の購入などは可能です。

 今回の撤退権の行使にあるように、雇用者は、従業員の安全を守る必要があります。現在、従業員を新型コロナウイルスから守るため、パリ市内の様々な店舗において、レジスター前に防護板が設置されるなどの措置が見られます。

 

 

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 (写真)新型コロナウイルスから労働者を守る板(左)やカーテン(右)を緊急設置=仏パリ市内スーパー