パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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フランス自治体の医師不足対策~フランス・モー市の場合~

 2019年12月に厚生労働省より発表された、「平成30(2018)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、2018年12月31日現在、病院・診療所などの医療施設に従事する人口10万人に対する医師数の平均は、246.7 人でした。これを都道府県別にみると、徳島県が329.5 人と最も多かったのに対し、埼玉県が169.8 人と最も少なく、地域で医師数に偏りがあることがわかります。

 ここフランスでも、医師不足や医師の地域偏在が叫ばれています。連帯・保健省(Ministère des Solidarités et de la Santé)の「date・Drees(※1)」にて発表している2018年のデータによると、フランスでは、人口10万人に対する医師数の平均は337.8人(うち総合診療医153人)となっています。地域別にみると、パリは858.2人(うち総合診療医248.3人)であったのに対し、パリに隣接するセーヌ・エ・マルヌ県では214人(うち総合診療医は100.4人)と、大きく偏っていることがわかります。

  特に、セーヌ・エ・マルヌ県に所在するモー市(Meaux。※2)では、近年医師不足が重要な課題となっていました。2015年には、約56,000人の人口に対し、市民の長期医療に携わる総合診療医が29人しかいない状況に陥ったこともあったほどです。つまり、当時の人口10万人あたりの総合診療医数は51.8人であり、当時の仏全土の同平均155.2人のおよそ3分の1であったことがわかります。深刻な人手不足のため、医師が新規患者を受け入れることができない等、市民の医療へのアクセスは厳しい状況になっていました。

 ところがここ数年でモー市は、医師不足対策によって状況が好転しただけでなく、地域圏保健庁(Agence régionale de santé:ARS。保健衛生に関し自治体と連携して機能する国の機関。)から医療政策に注力している市として一目置かれるようになりました。

 なぜ、モー市は医師不足の状況を打開できたのでしょうか。モー市は医師不足対策の他、予防医療にも注力しておりますが、ここでは、モー市が講じた医師不足対策についてご紹介します。

 モー市では、深刻な医師不足により「医師が見つからない」という住民の声に応じて、市の社会事業部や市民の健康を所管する部署等が中心となり、解決策に取り組んできました。同市では医師の確保を、まちの保全や防犯、文化的活動などと同レベルの重要課題として捉えています。(※3)

 モー市では、医師不足への対策として2つのことに注力しました。1つ目は「メゾン・ド・サンテ(健康の家、の意)」の整備、2つ目は医師を取り巻く環境の整備です。

 モー市は、約800㎡の広さをもつメゾン・ド・サンテを市中心部に建設し、その中に14の診療室を整備しました。メゾン・ド・サンテは、総合診療医や専門医等複数の医師が共に診療を行う公設民営のグループ診療所です。医師がひとりで診療所を開業するよりも、他の医師と運営経費の分担や診療日の調整を行うことが可能となるという利点があります。また市民にとっても、症状ごとに異なる診療所に出向く必要がなくなることは大きな利点です。

 また、医師を市内に誘致するため、モー市では、新たに同市で勤務することになった医師に対し、住居探しや保育所探しの支援といった生活環境を充実させる措置を講じました。その他、メゾン・ド・サンテの診療室の賃料を低価格に設定したり、診療に係る一切のことを、メゾン・ド・サンテで働く医師同士で調整できるようにしたり等、働きやすい環境整備にも注力しています。こうした措置や、美しい自然に囲まれている同市そのものの魅力を武器に、パリの大学病院等に出向く、市のホームページ上で募集広告を出すなどして、積極的に医師を呼び込み、確保を図ってきました。

 このような努力の結果、現在モー市のメゾン・ド・サンテでは、14の診療室で、一般的な総合診療の他、小児科、産婦人科、眼科などの専門的な診療科を受診することができます。うち1室では、外部の病院から、消化器内科や血管外科などの専門医が交代で診療しに訪れ専門の診療科を補っており、市民の医療へのアクセスをより高めています。

 メゾン・ド・サンテの建設や医師を取り巻く環境整備による医師確保で、モー市民の医療へのアクセシビリティは、数年間で飛躍的に向上しました。医師不足や、それに伴う市民の医療へのアクセシビリティの悪さは、各地で見られる共通の課題となっていますが、モー市は、今後も医師不足への対策に注力していくそうです。

 本件は、千葉県の活動支援に伴って調査を行ったものです。

※1「date・Drees」

http://www.data.drees.sante.gouv.fr/TableViewer/tableView.aspx?ReportId=3795

※2 モー(Meaux)市ホームページ

https://www.ville-meaux.fr/

※3 フランスでは地域の医師確保に関し、地方自治体が中心となって対策等を行うことになっています。

 

IMG 7697up   美しい外観を誇るモー市庁舎

 

IMG 7715up   市中心部に整備されたメゾン・ド・サンテ