フランスの自治体が取り組む喫煙対策
日本では、夏季大会で初めて敷地内を全面禁煙とする2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会も意識し、各地で主に受動喫煙対策を目的とした規制が進められている。18年7月に健康増進法の改正法が成立し、20年4月1日から全面施行される。また、東京都や千葉市など一部の自治体では、国より厳しい規制を定めた独自の条例が制定されている。一方、24年にオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するフランスでは、これまで屋内の規制が先んじていたが、健康促進や環境保護の観点から、屋外での喫煙規制の強化に取り組む自治体が増えている。
フランスの喫煙事情
WHOの調査によれば、16年におけるフランスの15歳以上の喫煙率は32.9%(男性35.6%、女性30.1%)であり、調査対象146カ国のうち21番目の多さである。ちなみに同調査で、日本の喫煙率は22.5%(男性33.7%、女性11.2%)で69番目だった。フランスでは喫煙者のマナーも悪く、街のいたる所にポイ捨てされた吸殻が落ちている。1年間にフランス国内でポイ捨てされる吸殻の総量は300億本に上ると見られている。
フランスにおけるタバコへの規制は1976年の通称ヴェイユ法によるテレビ・ラジオでの広告禁止に始まり、91年の通称エヴァン法により、広告禁止は公共の場にも広がった。屋内の喫煙に対する罰則付きの規制が導入されたのは06年のエヴァン法の規制強化によるもので、全ての屋内または覆いのある場所等での喫煙の禁止と、違反した場合の罰金68ユーロが導入された。施行は2段階に分けて行われ、07年から公共施設や企業、病院、公共交通機関、学校等で、次に08年からカフェやホテル、レストラン、カジノ等が禁煙となった。
また、タバコのパッケージに対する規制も強化が進み、17年からは全ての銘柄のパッケージについてデザインが統一され、タバコの影響による疾患の患部等の写真と警告文が掲載される一方、個別銘柄のロゴ掲載は禁止された。さらに、国民の健康増進を目的として国税であるタバコ税の増税を通じた間接的な値上げも進められた。07年には20本入りタバコ1箱の平均価格が約5ユーロだったが、18年には7ユーロを超えることとなった。政府はこれにとどまらず、20年には10ユーロとなるまで増税する意向を示している。
あわせて禁煙を支援する取り組みも進められ、ニコチンを含むパッチやガムといった禁煙補助製品に対する払い戻し、禁煙のための個別アドバイスを受けられるアプリの無償提供などが行われている。こうした一連の取り組みもあり、喫煙者数は減少している。公衆衛生当局の調査では、18歳から75歳のフランス人の日常的な喫煙率は16年の29.4%から18年の25.4%へと、4ポイント、約160万人減少している。なお、フランスでは、日本と異なり、ニコチンを含む電子タバコが販売され、普及していて、電子タバコに乗り換えた人も一定程度いる模様だ。10年から17年までの間に約70万人の喫煙者が、タバコをやめる代わりに電子タバコを使用しているという調査結果も出ている。
自治体が取り組む屋外での禁煙
屋外での喫煙規制は先進的な自治体が取り組んできた。まず11年、フランス南部の地中海に面したラ・シオタ市が、あまりに多いビーチでのポイ捨てと子どもを連れた家族への悪影響を問題視し、一つのビーチで試験的に禁煙を導入した。同市にあるビーチのわずか4%しか対象ではなかったとはいえ、フランスで先鞭をつける取り組みとなった。翌年には、コート・ダジュールを代表する避暑地であるニース市が市内の3つのビーチを「Plages sans tabac(タバコのないビーチ)」と銘打って禁煙化。その後、同じコート・ダジュールのカンヌ市やマントン市、フランス北部沿岸のウイストルアムやサン・マロ市にも同様の動きが広がり、今ではフランス国内で50以上のビーチが禁煙となっている。今年の6月からは、フランス第2の都市であるマルセイユ市においても3つのビーチが禁煙化されており、自治体によるビーチの禁煙が広がっている。
また、ストラスブール市は18年7月から、フランスで初めて市内の全ての公園、緑地での喫煙を禁止した。まず14年に市内の公園などにある子供の遊び場エリア3カ所を試験的に禁煙とし、利用者の好意的な反応を踏まえ、他の86カ所に拡大した。2017年には、一つの公園全体を禁煙とした上で、出入口にパネルを設置して反応を調査した。その結果、非喫煙者の71%、喫煙者の57%から賛意を得られたことから、全ての公園、緑地を禁煙としたものである。さらに首都パリ市においても、公園での喫煙規制が進められている。18年7月から、市内6カ所の公園を試験的に禁煙とし、市民の反応を調査した上で今年6月からその対象を52カ所に増やした。禁煙となる公園の総面積はパリ市全体の公園・緑地のうち約10%を占める。
毎日1000万本がポイ捨てされるパリ市
パリ市は、市が行う路上清掃で毎日約1000万本の吸殻が収集され、年間総量が350tに上ると言われるほどポイ捨てが非常に多い都市である。街のいたるところに捨てられている吸殻は、年間5.5億ユーロを要する市の清掃費用を押し上げている一つの要因であるとともに、環境や健康への悪影響を引き起こすことから、ポイ捨て対策を進めている。15年にはタバコのポイ捨てに対する罰金68ユーロを導入、この罰金を科された件数は、16年は1880件、17年は2万4511件、18年は3万5800件と年々増えている。
また、パリ市は今年5月18日から、指定した市内19の通りで「Rues sans mégots(吸殻のない道路)」と呼ぶキャンペーンを始めた。このキャンペーンは、市民の意識を変え、ポイ捨てされる吸殻をなくすのが目的で、遊び心を交えた参加型灰皿の設置や携帯灰皿の無料配布を行った。
こうした一連の取り組みからは、ポイ捨てに対するパリ市の姿勢が伝わってくるものの、罰金の件数はポイ捨ての総量に比べて少なく、また「Rues sans mégots」においても、新しく導入された灰皿付近に吸殻が捨てられるなど、状況の抜本的な改善は程遠い。
パリ市をはじめとするフランスの自治体が24年のオリンピック・パラリンピック大会も見据えて今後どのように取り組みを進めるのか、引き続き注目していきたい。
街中のいたる所に落ちている吸殻
喫煙による疾患の患部等が掲載されたパッケージ
スタートレックとスターウォーズのどちらが好きかなど、投票形式にして喫煙者の興味をひく灰皿