フランスの食品事情 ~bio(ビオ)商品が生まれる理由~
フランスのスーパーマーケットや街中で開かれているマルシェでは、「bio」と書かれた看板の下で野菜や果物が売られている光景をよく目にします。「bio(biologique)」とは、日本では「オーガニック」、「有機」と呼ばれる化学肥料や農薬を使わない農地で生産され、かつ、遺伝子組み換え技術を使わないなどの生産要件を満たした有機農産物や、原料の95%以上に有機農産物が使われた加工食品に用いられる言葉であり、ヨーロッパ共通の認証である「ユーロフィーユ」マークや、フランス農業・食料省の独自認証である「AB(Agriculture Biologique)」マークが付されて販売されています。この基準は、日本の有機JAS認証に相当する厳しいものですが(各認証マークの使用基準は表1を参照)、2018年時点で農林水産省が初めてまとめた調査では約1,850億円といわれる日本の有機食品市場と比して、フランスのbio市場は2013年時点で既に45億ユーロ(約5,400億円)であり、2018年には97億ユーロ(約1兆1,640億円)と5年間で2倍以上と遥かに大きくなっています(※1)。
bioであると価格が35%程度高くなるにも関わらず(※2)、フランスにおいてここまでbioが浸透している理由は何でしょうか。2019年2月に公表された、フランスの公益団体である有機農業開発促進機関(Agence BIO)の調査によると、フランス人の88%が過去にbio商品を購入した経験があり、また、71%が自分と家族の健康、そして地球環境への配慮のため、月に1回以上bio商品を購入していると回答しています。国民一人当たりの平均購入額は年間136ユーロと日本の10倍以上も高く、近年は、若年層のbioへの関心の高まりにも注目されるなど、世代を超えた食と健康への意識の高さがうかがえます。
フランス国民の高い意識を背景に、農業・食料省は2018年6月、国内の農業及び食品に関する行動計画「Ambition Bio 2022」を策定し、有機農業への転換促進のための総額11億ユーロの財政支援を盛り込むなど、国をあげて農業構造の転換を強く後押ししています。また、環境連帯移行省他2省と共同で、2025年までの農薬使用の半減目標も設定していて(※3)、農薬依存からの脱却に向けた強い意志が感じられます。
一連の動向は、フランスの地域振興にも恩恵をもたらしているようです。Agence BIOが今年6月に公表した報告書では、2018年の1年間でbioに関連し18,714名の新たな直接雇用が創出された(※4)とされています。また、フランス南部に位置するオート=ガロンヌ県のヴォルベストルコミューン共同体では、域内で生産される有機農産物の管理、加工、流通の一元化プロジェクトが進行しており(※5)、地域の雇用、経済、流通を促進する新たな取組へと発展しています。
2019年8月22日には、有機野菜・果物の販売価格に関連し、フランスの消費者団体クショワジールから興味深い調査結果が公表されました(※6)。この調査によると、bio野菜・果物の流通者マージンは通常の野菜・果物の流通者マージンに比して平均75%高く、ジャガイモ83%、トマト109%、リンゴ149%など消費量が多い商品ほどマージンが高くなるとされています。例えば、通常のリンゴ販売価格2.04ユーロ/kgと比べ、bioのリンゴの販売価格は4.19ユーロ/kgとなりますが、その内訳を見ると、流通マージンの上昇149%に比して生産者価格の上昇は70%に過ぎないことに言及し、bio食品の販売価格の上昇が有機農業の追加的コストに由来するという従来の説明に対する矛盾を指摘したうえで、より販売価格の安い専門店での優先購入を呼び掛けています(表2参照)。このように、価格設定については議論の余地が残っているものの、比較的高価格であったとしても消費者から選択されるというbio食品の商品力の高さの一端を表す結果ともいえるのではないでしょうか。
「食」というフランスと共通の強みを持つ日本ですが、これらのフランスのbioの取組みから今後の農業や地方にとって有効な方策も期待されます。
(表1)
マークの種類 |
マークの使用基準(抜粋) |
(EU) ユーロフィーユマーク |
欧州理事会規則「(EC)№834/2007」及び「(EC)889/2007」に従い生産された農産物、加工食品、飼料、畜産物、種子等に適用。農産品、加工食品にかかる主な生産要件は以下のとおり。 ・主に再生可能資源を使用し、認められた肥料・土壌改良資材を使っていること。 ・遺伝子組み換えをしていないこと。 ・有機加工食品にあっては、水と食塩を除き、95%以上が有機起源成分であること。 ※欧州理事会規則及び日本貿易振興機構「欧州における有機食品規制調査」より。 |
(フランス) ABマーク |
Agence Bio「ABマーク使用規則」に従い生産された農産物、加工食品、飼料、畜産物、種子等に適用。上記欧州理事会規則に準拠した生産が求められる。 また、欧州理事会規則の規制対象外であるペットフード、ウサギ、カタツムリ等にも使用が可能。 ※Agence Bio「ABマーク使用規則」より。 |
(日本) 有機JASマーク |
農林水産省「有機農産物の日本農林規格」等の有機JAS規格に従い生産された農産物、加工食品、飼料、畜産物に適用。農産品、加工食品にかかる主な生産要件は以下のとおり。 ・堆肥等による土作りを行い、播種・植付前2年以上及び栽培中に、原則として化学的肥料及び農薬は使用しないこと ・遺伝子組換え種苗は使用しないこと。 ・有機加工食品にあっては、水と食塩を除き、95%以上が有機農産物(又は有機畜産物・有機加工食品)であること。 ※農林水産省食料産業局「有機食品の検査認証制度について」より。 |
(表2)
通常のリンゴ |
bioのリンゴ |
上昇率 |
|
販売価格(税込) |
2.04ユーロ/kg |
4.19ユーロ/kg |
105% |
生産者価格 |
1.06ユーロ/kg |
1.80ユーロ/kg |
70% |
流通者マージン |
0.87ユーロ/kg |
2.17ユーロ/kg |
149% |
TVA(付加価値税) |
0.11ユーロ/kg |
0.22ユーロ/kg |
100% |
消費者団体クショワジール「Sur-marges sur les fruits et légumes bio」(※6)より作成
<参考>
市内大型スーパーのbio商品売場の様子(手前は通常の野菜売場)
bioのトマト(6.40ユーロ/kg) 通常のトマト(3.99ユーロ/kg)
bioのリンゴ(3.99ユーロ/kg) 通常のリンゴ(2.99ユーロ/kg)
bioのピーマン(6.95ユーロ/kg) 津城のピーマン(4.49ユーロ/kg)
(※1)Agence BIO 「Barométre de consommation et de perception des produits biologiques en France」(1ユーロ120円換算)
https://www.agencebio.org/vos-outils/les-chiffres-cles/
(※2)Agence BIO「Qu’est-ce qu’un produit Bio ?」
https://www.agencebio.org/decouvrir-le-bio/questions-reponses/quest-ce-quun-produit-bio/
(※3)農業・食料省「Le Gouvernement confirme son ambition de réduire les produits phytosanitaires de moitié d’ici 2025 et sortir du glyphosate pour une majorité d’usages d’ici fin 2020」
(※4)Agence BIO 「Les chiffres 2018 du secteur bio」
https://www.agencebio.org/wp-content/uploads/2019/06/DP-AGENCE_BIO-4JUIN2019.pdf
(※5)ヴォルベストルコミューン共同体「Le Relais Cocagne de la Haute-Garonne un projet innovant de la filière bio」
https://volvestre.fr/actu/les-jardins-du-volvestre-finaliste-des-trophees-bio-des-territoires/
(※6)消費者団体クショワジール「Sur-marges sur les fruits et légumes bio」