パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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フランスにおける公共サービス分野でのAI開発プロジェクト

 フランスでは2018年3月にマクロン大統領が国家AI戦略を発表し、任期が満了する2022年までの間に総額15億ユーロを投じてAI振興に重点的に取り組む姿勢を示しています(※1)。この戦略では、スタートアップ支援やAI研究所のネットワーク構築による研究推進、人材育成などの施策が打ち出されています。

 この国家AI戦略に係る施策の一つとして、公共サービスにおけるAI開発プロジェクトへの支援が公募により実施されています。このプロジェクトはDINSIC(国家情報通信システム・デジタル省庁間総局)及びDITP(公共部門改革省庁間総局)によって行われています。

 2018年に第1回目の公募が行われ、さまざまな国の行政機関から52件の応募があり、6件のプロジェクトが採択されました(※2)。採択されたプロジェクトは、「土地の不法占用の検知(エロー陸水域県総局)」、「顧客レビュー・SNSを利用した健康上のリスクがあるレストランの検知(農業・食糧省食糧総局)」、「原子力活動とリスクの管理強化(原子力安全局)」、「環境警察の監視活動の改善(フランス生物多様性庁、生態学連帯省)」、「術後治療の改善(トゥールーズ大学病院)」、「利用者からの質問への素早い対応のための「ボイスボット」の活用(雇用小切手国家中央連合、社会保障中央機関)」です。例えば、「土地の不法占用の検知」ではAIが衛星画像と航空写真を画像認識し、比較することにより、建築物、トレーラーハウス、ゴミの投棄等、新たな土地の不法占用を自動的に素早く検知することを目的として開発が行われます。各プロジェクトの詳細は後述のとおりです。

 これらのプロジェクトは10ヶ月間DINSIC及びDITPの援助を受けながら開発や実験が行われています。6つのプロジェクトで合わせて100万ユーロ(約1億2,500万円)の資金が国のPIA(将来投資プログラムに関する基金)により提供される予定です。この取り組みにより開発されたツールは、全国の公共サービスに展開されることになります。

 同プロジェクトは2019年4月~5月に第2回目の公募が行われました(※3)。同年7月上旬に公的部門と民間部門の有識者からなる審査員により選考され、受賞プロジェクトは同年7月中旬に発表される予定です。プロジェクトの支援は同年9月に開始されます。

 これらの公募により開発されたAI技術が地方自治体等でどのように活用されていくのか、今後も注視していきたいと考えています。

【採択された6つのプロジェクトの詳細】
(1)「土地の不法占用の検知(エロー陸水域県総局)」
・目的:建築物、トレーラーハウス、ゴミの投棄等、新たな土地の不法占用の高精度な検知
・利用データ:衛星画像、航空写真
・人工知能の役割:視覚認識に基づき、衛星画像の比較をすることで、新たな土地の不法占用の高精度な検知を自動化すること
・AI化に伴うメリット:検知に費やす時間の短縮、現地での取り締まりにより多くの時間を割くことが可能となる

(2)「顧客レビュー・SNSを利用した健康上のリスクがあるレストランの検知(農業・食糧省食糧総局)」
・目的:リスクの高い施設に狙いを定めることにより食品安全管理を効果的に行うこと
・利用データ:SNSでのレストランへのコメントとレビュー
・人工知能の役割:意味分析に基づき、否定的意見の認識や潜在的な健康上のリスクの可能性の検知を行うこと
・AI化に伴うメリット:食品衛生監視員が優先順位を付けられた検査対象施設一覧を入手することが可能となり、検査対象施設の発見に費やす時間の短縮や現地での取り締まりにより多くの時間を割くことが可能となる

(3)「原子力活動とリスクの管理強化(原子力安全局)」
・目的:検査で重点的に監視すべき要素を特定し、原子力の使用に伴うリスクから労働者、患者、環境等を保護すること
・利用データ:原子力の様々な検査後に作成された、約2万件の検査報告書
・人工知能の役割:意味分析に基づいて、検査報告書の中から監視すべきポイントを検出すること
・AI化に伴うメリット:検出されたポイントを重点的に監視することにより、より高度な検査が可能となる

(4)「環境警察の監視活動の改善(フランス生物多様性庁、生態学連帯省)」
・目的:監視活動の効率を改善し、遵守されていない事案の取り締まりを強化する
・利用データ:水質などの環境に関するデータ
・人工知能の役割:データ分析を行うことにより、遵守されていない事案を予測可能なモデルとして構築すること
・AI化に伴うメリット:検査に費やす時間の短縮、遵守されていない事案の解決により多くの時間を割くことが可能となる

(5)「術後治療の改善(トゥールーズ大学病院)」
・目標:医療記録を分析することで、データを構造化・最適化すること
・利用データ:医療報告書、大量の未整理の医療記録
・人工知能の役割:意味分析に基づき、文書中から医療の概念を抽出し、医療記録の複雑なデータの構造化を行うことで標準的モデルを構築すること
・AI化に伴うメリット:医療情報の検索の最適化、医者の時間節約、患者記録の一貫性の向上

(6)「利用者からの質問への素早い対応のための「ボイスボット」の活用(雇用小切手国家中央連合、社会保障中央機関)」
・目的:雇用小切手(※4)の使用に関して、利用者に回答を迅速に提供すること
・利用データ:利用者からの、簡単かつ繰り返してなされる質問
・人工知能の役割:言語の自然な理解とトレーニング力を備えた音声合成によって、利用者からの質問に直接答える、若しくは、より関連性のあるオペレーターへ電話を転送すること
・AI化に伴うメリット:短時間で質の高い回答や電話での自然な回答が可能になるとともに、電話オペレーターはより専門的で複雑な問題に焦点を当てて仕事をすることが可能になる

(※1)https://www.aiforhumanity.fr/
(※2)https://www.numerique.gouv.fr/actualites/intelligence-artificielle-6-projets-selectionnes-pour-etre-experimentes-dans-les-services-publics/
(※3)https://www.numerique.gouv.fr/actualites/saison-2-intelligence-artificielle-administrations-proposez-vos-projets-experimentations/
(※4)雇用小切手とは在宅サービス等の個人雇用主の役務の提供を受ける際に、賃金の支払いに使用できる小切手のこと。