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パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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日仏交流を活かした地域ブランド化への道 ~弘前シードルはどんな味?~

11月2日、青森県弘前市の鎌田副市長を代表とする訪問団がブーヴロン・アン・ノージュ村(Beuvron-en-Auge、フランス ノルマンディー州カルバドス県、以下「ブーヴロン村」)を訪問し、弘前市とブーヴロン村のシードル(りんご酒)を通じた協定の更新のための調印式が行われました。

この協定は、弘前市がブーヴロン村のシードルの販売支援、ブーヴロン村が弘前シードルの生産技術支援を行うことをうたったもので、2012年に最初の締結がされて以来、今回で2度目の更新となり、今回から新たに観光分野でも相互協力することが協定に盛り込まれました。

弘前市はりんごの栽培が非常に盛んで、断トツで全国1位の生産量を誇り、年にもよりますが、日本全国の生産量の約4分の1にも達します。シードルが有名なフランスのノルマンディー地方自治体との交流には、日本国内でもシードルの認知度が高まっている中、「弘前シードル」をブランドとして確立させたいという狙いがあります。背景にあるのは、雹が降った場合などに傷がついて生食では値段が極端に下がるりんごをどのように活用するか、という問題意識でした。通常はこうしたりんごはりんごジュースやりんごジャムに加工されますが、これらの市場は成熟しているため、新しい市場を開拓しなければならない、ということで目が向けられたのがシードルです。

協定に基づいて、弘前市のりんご生産者がブーヴロン村を訪問したり、ブーヴロン村のシードル研究者が弘前市内で技術指導を行うなどし、締結当時、市内に1社しかなかったシードル製造者は現在6社にまで増えたほか、このほかにも新規参入を検討している生産者も出てきているとのことで、市内の機運も盛り上がってきているそうです。

弘前市企画課産業イノベーション担当佐藤氏は今後の目標について「交流を通じて、弘前シードルの認知度をさらに高め、市場を拡大させたい。日本最大のりんご産地として、市内にもっと多くのシードル製造者がいてほしいですし、味のバリエーションも広げたい。フランスのシードル街道(ブーヴロン村のあるペイ・ドージュ地域内のりんご農園・シードル生産者をめぐる約40kmの観光ルート)のように、『弘前に行ってシードルを飲みたい』と皆さんから思っていただけるような街にしたいです。」とコメントしています。

またこの協定を機に、弘前大学でフランス語を学ぶ学生がブーヴロン村を訪問するなど、シードルだけでなく市民レベルでの交流も広がっています。調印式が行われた会場には全村民の約5分の1にあたる40名ほどが詰めかけ、住民の関心の高さが伺えました。さらに今回から加わった観光分野の協力については、ブーヴロン村のラヴェル・デティエンヌ村長も、シードルの普及だけでなく、「フランスの最も美しい村(les Plus Beaux Villages de France)」にも登録されているこの村を多くの日本人に知ってもらい、実際に村に来て欲しいと期待を膨らませます。これに対し弘前市では、りんご公園にブーヴロン村のことやシードルを紹介するパネルの設置などを計画しており、両者の交流の更なる発展が期待されます。

課題もあります。一番高く売れるのは生食用のりんごなので、弘前市では生食用にできないりんごをシードルに活用していますが、フランスではシードル用と生食用のりんごははじめから違っています。このため、本場フランスではシードルは日本のような甘口だけではなく、辛口まで様々ですが、日本のシードルは甘いものが多く、食中酒としてこの料理にはこのシードル、といった提案がまだできていない現状があります。フランスの技術者からは、まずそこを変えるべきだと以前から提案されているそうですが、生産者の、『(生果用の)おいしいりんごを作りたい』というこだわりもあり、また、生食用のりんごに比較するとシードルの市場評価もそこまででないことなどから、なかなか難しいところがあるそうです。シードルの街として、弘前市を盛り上げたいが、りんご産業全体のあり方も考えなければならない、というジレンマがそこにはあります。

日本で「シードルは甘いもの」というイメージが定着しているのであれば、そもそものニーズは甘いシードルにあるのではないか、と尋ねたところ、

「確かに、最近の若い世代は特に、ビールよりも、甘いお酒を好む傾向があります。しかし、そもそもそういった層は、お酒を普段から飲まない、ということもいえます。また、弘前シードルをお酒の文化として続けていくためには、食中酒となっていかなければいけない、という考えもあり、このあたりは、方向性が難しいところです。」と、ここにも将来を模索する担当者の真剣な想いがありました。フランス ノルマンディー地方のシードルに対して、誰もが知っている地域ブランド、地域文化として確立するために、「甘くておいしいお酒」から「辛口のおいしいお酒」まで、「弘前シードル」をどのようなお酒としていくのか、全国一のりんご生産地がフランスとの交流を活かしながら、りんご生産体制から醸造、販売、マーケティングまで含めて進めていく取組に興味が尽きません。

 

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(調印式の様子1(左)弘前市 鎌田副市長、(右)ブーヴロン村 ラヴェル・デティエンヌ村長)
 
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(調印式の様子2)

 

Tagged under: 国際交流 経済活動