パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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公選職の兼職制限 ~ジョスパン報告~

現在審議中の国会議員等の兼職制限法案は、昨年11月提出のジョスパン委員会報告書がベースになっている。報告書には、現行制度の内容やその問題点を含め、オランド政権の考える改革の方向性がコンパクトに記述されていることから、今回の法案の背景理解の一助となるよう、その概略について紹介しておきたい。

オランド大統領は、国会議員・地方議員の兼職制限等、大統領選挙の際に公約した事項について検討させるため、昨年2012年7月16日政治倫理刷新委員会(座長:リオネル・ジョスパン元首相)を設置した。これが通称「ジョスパン委員会」である。
ジョスパン委員会の報告書は、既に内容的にはかなり角の取れた現実的なものとなっていたことから、今般提出された法案はほぼこれをそのまま踏まえていると言って良い。ただ、その実施時期は報告書におけるよりも遅く設定されている。

以下、報告書概要。

「国会議員の兼職を厳しく制限する」

【兼職の背景】
国会議員の地方公選職との兼職はフランスの慣習であり、欧州他国と比較した場合の特異性ともなっている。(殆どの国では禁止され、あるいは事実上厳しく制限されている)
フランスのこうした長年の伝統の要因としては次のような点が上げられる。

82年、83年の地方分権改革が国・地方の力関係を転換するには時間を要したが、その間、多くの地方議員にとって、地方のプロジェクトを効果的に進める上で国会議員のポストが不可欠と受け止められていた。改革から30年経過し、そうした理屈付けは殆ど根拠を失ったが兼職の習慣自体は残存している。
反対に、国会議員は、地方に根を下ろさねば自分の立場が脆くなり政治力を失うと考える。

しかし、兼職の弊害に対する認識は世論や政治家自身の間で次第に高まり、1985年に初めて兼職制度の枠組みが導入され、2000年4月5日の組織法律により制限が強化された。爾来、両院の国会議員は、州議会、県議会、人口3500以上のコミューン議会の議員のうち1つしか兼職はできないこととなった。

【現 状】
しかし、依然として両院とも国会議員の大多数が地方公選職(議長、副議長、メール、助役など執行機関を含む)を兼職している。その現状は次の通り。

                   定数(分母)      兼職者       執行機関兼職者  メール、県・州議長兼職者
国民議会       577         476 (82%)           340 (59%)               261 (45%)
上  院         348            267 (77%)            202 (58%)               166 (48%)

現行制度は国会議員と地方の執行機関との兼職に何らの制限も課していない。また、広域行政組織の議会や地方の外郭機関のポストは兼職数にカウントされない。さらに人口3500未満のコミューンを含む場合、国会議員は2つ(以上)の地方ポストを兼職することも可能。

【課 題】
委員会は、次の理由から、こうした状況を変えるべきと考える。

(1)第一に、国会機能の刷新に対する障害になっていること。
国会議員は何よりもまず立法者であり、法案審議こそ最大の責務。おまけに2008年以来国会審議の形が変わり、委員会での精査を踏まえて本会議での審議がなされることとされており、国会議員の負担はますます増大。加えて、欧州レベルのルール作りの仕事も上乗せになっている。
国会の役割の強化に向けた2008年7月23日の憲法改正で明らかにされた通り、政府活動の監視や政策評価といった機能も益々重要になっていくが、これらは法案審議並みの負担を求めるものであり、国会議員は今後これらの作業により多くの労力を割くべき。国会議員が国民の期待に応え、統治機構のバランスにおいて国会に求められる機能を果たせるよう、踏み込んだ改革が求められている。
全てを兼職のせいにすることはできないにしても、兼職がその阻害要因になっていることは確か。兼職をしていては国会活動に専念できる時間の確保は困難。

兼職は、憲法が国会議員を全国民の代表と定めていることにも抵触する恐れ。立法者が特定の地域の意見に耳を傾け、考慮に入れることを妨げるものではないが、特定の利益を図ることを立法動機とすることは許されない。国会議員が地方ポストを兼職すれば、地域の案件に直接巻き込まれ易くなり、その点で国民代表性に対するリスクとなる。

(2)第二に、地方公選職の重要性をより認識すべきであること。
大臣の職務専念の重要性については別途指摘した通りだが、それと同様、地方公選職も職務に専念すべき。

(3)第三に、厳格な兼職制限は、政治に参画するメンバーの交代の効果的ツールとなりうること。
政治の刷新のためには、女性へのより一層の門戸開放が必要。また一般市民や移民出身の政治家も少な過ぎる。こうした門戸開放は一義的には政党の役割だが、兼職制限はそれを後押しすることになる。

【改革の方向性】
これらの理由から、委員会は、国会議員が直ちに全ての地方公選職と兼職することを禁止することの妥当性について検討したが、結論としては兼職の「禁止」mandat uniqueという選択肢は取らないこととした。兼職は長い間かけて定着してきたフランスの慣習であり、法律をもってしても、こうした伝統を一気に消し去ることは困難。
そこで、委員会としては、大きな変革を生み出すほどに意欲的で、しかも新たなバランスが徐々に定着することが可能となるような選択肢を取ることとした。委員会は兼職「禁止」へと向かうことを視野に入れているが、乱暴に期限を切ることは望ましくないと考える。

【改革案】
そこで委員会としては、
・国会議員は執行部以外の「一般の議員」を「一つ」のみun mandate simple兼ねることができることとすること
・この新たな枠組みは、上院議員、国民議会議員に等しく適用されること
・次の地方選挙(2013年3月のコミューン統一選挙)から直ちに適用されること
を勧告する。

(パリ事務所長 黒瀬敏文)