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パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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オランド分権改革を追う(5) ~経済成長と雇用拡大に向けた州の強化及び地域間格差解消の促進に関する法律案~

本年4月10日に閣議決定された分権関連3法案の紹介シリーズ、今回は2本目の「経済成長と雇用拡大に向けた州の強化及び地域間格差解消の促進に関する法律案」について紹介する。

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(前回まで)

1 地方行政の刷新とメトロポールの確立に関する法律案
(1)権限の体系化に向けた方策
(2)メトロポールの確立

(以上、前回まで)
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2 経済成長と雇用拡大に向けた州の強化及び地域間格差解消の促進に関する法律案 Projet de loi de mobilisation des régions pour la croissance et l’emploi et de promotion de l’égalité des territoires

(1)経済成長に向けた条件整備

①地域の経済発展に向けて
州には、国による調整内容を尊重しつつ、域内における各地方公共団体やその広域行政組織の経済的開発に関する事業間の調整を行う役割が期待されている。
そのため、各州は、「経済開発・イノベーション・国際化に係る州計画schéma régional de développement économique, d’innovation et d’internationalisation」において、企業支援に関する戦略指針を定めることとされている。この計画は、州議会議員統一選挙の翌年に、州が、国・地方公共団体・メトロポール・職業別利益団体organismes consulairesとの協議を経て採択することとされており、具体的には、州がリーダー自治体chef de fileとしての役割を果たすべき経済的開発分野における、州の権限執行の具体的条件などが定められる。また、同計画と整合的な行動をとるべき他の地方公共団体に、州が権限を委任する場合の要件等も、この計画に定めることとされている。
住民、企業、NPO等の行政手続きにおける便宜を向上させる観点から、情報提供、申請書作成、精算など一貫して同一の担当者を通じて行えるようにする「単一窓口guichet unique」、いわばワンストップサービスの概念の、行政現場への導入が進められているが、企業助成については、企業に対する全ての地方公共団体の事業を調整する州がこの「ワンストップ窓口」としての役割を果たすものとされている。

各州(メトロポールがある場合はメトロポール)は、経営困難に陥った企業への助成を行う権限を専管的に有するものとされ、加えて、企業の新設・再建に参画する組織への支援を行うこともできるとされている。
さらに州については、技術移転促進機構SATTへの資本参加がより容易にできるよう制度が改正されている。
他方、コミューン(コミューンから権限が移譲されている場合には、課税権を有するコミューン間広域行政組織)は、企業用の不動産への助成について専管的に権限を有するものとされ、複数団体による企業支援の輻輳の回避を図っている。

②経済発展等欧州基金に係る権限の移譲
国は、州が希望する場合には、経済的発展等のために設けられた「欧州基金」の運営(支援対象プロジェクトの適合性審査など)の全部または一部について、各州に権限を移転または委任することができるとされている。ここで欧州基金とは、「知的、持続可能で包括的な成長のための欧州戦略2020」において、2014年から2020年までの間、欧州連合が、加盟各国のために設置するとされた基金で、具体的には、地域経済発展基金FEDER、欧州社会基金FSE、農村開発のための欧州農業基金FEADER、海洋・漁業欧州基金FEAMPといった基金が含まれる。欧州社会基金については、州はさらに県議会に対して権限を委任することができる。

(2)雇用と若者の未来

①職業研修
州は、全ての人に職業研修を受ける機会を保障する責務を有する主体として位置付けられている。そのため、これまで国の所管とされてきた身体障害者、国外在住のフランス人、拘留中の者を含め、全ての市民の職業研修に関する権限は州に属するものとされた。すなわち州は、国の職業紹介所や(県が希望する場合には)県のためにも、職業研修事業を一括して調達する主体となる。
具体的な事業としては、州は、識字率向上事業、就職の鍵となるような能力の獲得支援事業、技能認定における候補者への同伴等を担う。
雇用、職業研修、進路指導という相互に密接に関連する分野における、国・地方公共団体・国民の協調体制を強化するため、職業生涯教育中央評議会conseil national de la formation professionnelle tout au long de la vie 、雇用中央評議会conseil national de l’emploiは合併し、「雇用・進路指導・職業教育中央評議会conseil national de l’emploi, de l’orientation et de la formation professionnelle」へと改組することとされた。

②現場実習apprentissage
国立実習センターcentres de formation d’apprentis d’Étatは、州の専管的権限として丸ごと移管されることとされている。

③進路指導
州は、国が定める「公的進路指導機関service public de l’orientation」について、その実際の運営に当たることとされている。具体的には、学校施設外に設置される「就職情報・進路指導センター」においてサービスの提供を行う。

※ ここで公的進路指導機関とは、国に帰属する進路指導専門の教員やスタッフ(特に進路指導心理カウンセラー)、地方公共団体、職能団体、企業、NPO(特に、主に地方公共団体による財政支援を受けた、地域別活動や受付・情報提供・進路指導常設窓口業務を行うもの)など、進路指導に係る様々な主体が集合したものである。法案によれば、州は、当該公的進路指導機関に参画するすべての組織の事業間の調整のほか、これまで国の権限とされていた進路指導事業所の認証labellisationを担うこととされている。

④高等教育及び研究に係る州計画の策定
各州は、高等教育、研究、イノベーションに関し、事業の優先順位を州計画に定める。また各州は、科学、技術、産業に関する文化culture scientifique, technique et industrielleの普及の推進を担う。

(3)地域間格差解消の促進

①地域のエンジニアリング
各県は、道路整備、地域開発、住宅整備に係る計画の推進に必要な財源を十分に有しない過疎地のコミューンや小規模のコミューン間広域行政組織に対し、技術的支援を行う。

②サービスへの住民アクセスの改善
山村地域・都市地域を問わず、公共機関への住民アクセスやサービスの質を向上させるため、必要に応じヴァーチャルな手段も活用した「公共機関総合センターmaison de services au public」を創設する。ここで言う公共機関には、国、地方公共団体及びその広域行政組織、国・地方の関連団体に加え、競争原理をはじめとする諸々のルールの遵守を前提として、一定の民間機関(郵便・ガス・電気など)も含まれる。

国及び県議会は、各県単位で、コミューン及びその広域行政組織の意見を踏まえつつ、時間・コスト両面における住民アクセスの向上策を企画立案し、「県域における公共機関へのアクセス改善計画」(組織の共同化を含む)に定めるものとされている。

③県による地域情報化の推進
各県は、公共及び民間セクター間の情報化設備の整合性を確保するため、情報化推進地域基本計画schéma directeur territorial d’aménagement numériqueを策定する。
この計画は、電子情報のオペレータや国との協議を経て、各県ごとに採択されるもので、既存及び計画中のネットワーク、とりわけ超高速の固定・移動通信ネットワーク(衛星通信を含む)により県域全体がカバーされるよう、その開発戦略を定めるものである。複数県をまたがる計画とすることも認められている。

(パリ事務所長 黒瀬敏文)