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パリ事務所(クレア・パリ=CLAIR PARIS)は、日本の地方団体のフランスにおける共同窓口として、1990年10月に設置されました。

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オランド分権改革を追う(9) ~エロー首相インタビュー~

4月10日のフランス地方分権3法案の閣議決定を前に、フランスの地方行政専門誌「GAZETTE des communes」がジャン・マルク・エロー首相への単独インタビューを行った(4月9日)。前回までに紹介した法案の強弱や濃淡を理解する一助として、今回は、このインタビューの模様をお伝えする。分かり易くするため、必要に応じ言葉を足している。
地方公共団体をはじめ関係者が一様に抱く素朴な疑問点が率直にぶつけられ、またエロー首相も多少模範解答的であるとは言え、それに端的に応えようとしている。今後の法案の流れを追う上でも参考になるのではないか。

Q 閣議決定1週間前に法案を三つに分割した理由は?

A 当初は124条に及びその内容も非常に複雑な法案だった。そのため、立て込んだ国会日程も勘案し、体系的に整理し直すことにした。特に先議となる上院との建設的な議論の結果、3つに分割することとした。これは82年の第一次分権改革法案でも取られた手法だ。

Q 三法案の国会審議日程は?

A 一つ目(権限の明確化、メトロポール確立、大都市共同体拡充などがテーマ)は今春、二つ目(州強化、地域間格差解消)は秋、三つ目(地域高等評議会創設、権限移譲、広域行政組織の強化、地方の民主化推進、財政透明性確保)は2013年末から2014年初頭にかけて審議される見込み。

Q 法案では一般権限条項を州・県に復活させることにしている。これでは異なる階層の地方公共団体間の権限輻輳問題が再燃すると思うが、団体間でどう調整することになるのか?

A ミルフィーユ状態(輻輳状態)を解消するには、まずそれぞれの政治家が同じテーブルにつくことだ。憲法に保障された地方の自由な行政と、簡素化・効率化の両立を図る必要がある。そのためのには「事務共同化」と「節約」が必要だ。
上からの機械的な権限配分よりは、地域での調整のテーブルを設けることで、地域ごとに異なる実情を踏まえた適切な役割分担がなされることを目指すのが我々のやり方。大都市部のメトロポールと、県庁所在地ですら小さな町でしかない地方の県とでは、自ずと事情が異なるし、経済発展の推進、スクールバスの運用、観光政策など諸施策の進め方も、土地土地で違って当然だ。

Q 今回の改革のイノベーティブな取組は?

A こうしたテーブルの設定もその一つだし、パリ・リヨン・マルセイユの三大都市をはじめ、各地大都市圏へのメトロポールの設置もその一つだ。首都の魅力の世界への発信、住宅問題といった課題の解決のため、パリには世界を代表する大メトロポールが必要だ。そしてそのためには手段を与えねばならない。しかしそれは新たなグラン・パリ(大パリ)を国の財政で作り上げるという意味ではない。グラン・パリは地域での財源調達によりなされなければならない。

Q 今回、グラン・リヨン(大リヨン)は、(憲法72条で言うところの)完全な地方公共団体になるとされているが、その背景は?

A 法案が議決されれば、グラン・リヨンは県と同じ権限を獲得することになる。これは政治的コンセンサスがあったから可能になった。大都市共同体議長のジェラール・コロンと県議会議長のミシェル・メルシエは党派は真逆だが、皆が合意に達したのだから。

Q 一方、そのコンセンサスがマルセイユには欠けているが…

A 確かにマルセイユでは政治的コンセンサスができていない。しかし今般の法案で我々が提案しているエクス・マルセイユ・プロヴァンス・メトロポール、つまり、6つの課税型広域行政組織を一つの公施設法人にまとめるという案は、まさに市民社会の強いニーズを反映したものだ。商工会議所などの職能団体や非営利組織、組合など多くの主体がこうした改革を求めている。大学を例にとって見ても、エクス・マルセイユ大学という地域を超えた組織が既に実現しているではないか。この地域は、欧州・地中海を視野に入れた大メトロポールになる素晴らしい資質を持っている。今年はマルセイユが欧州の文化首都に指定されているが、まさにそのポテンシャルを余すところなく示している。

Q しかしエクス・マルセイユ・プロヴァンスの案については抵抗が強い。どう対処するか?

A それぞれの政治家に責任を持って考えさせることだ。政治家は皆、この問題から逃げることは許されない。この地域では11もの主体が交通機関を運営している。地理的な事情もある。それぞれがトラムをやりたいというのは良かろう。でもこれらがお互いに接続していないとすればどうだろう。
マリニャンヌ市にあるユーロコプター社は社員の採用で四苦八苦している。その一方で、そこから数キロ離れたところでは高い失業率が問題になっている。エリア・権限とも拡充されたエクス・マルセイユ・プロヴァンス・メトロポールは、州と連携しながら、まさにこうした問題に対処できるはずだ。

Q これら3つの大都市の他、一般的な「伝統的メトロポール」も作ることにしているが、その狙いは?

A 私たちの案は、人口50万以上の都市部にある人口40万以上の広域行政組織にメトロポールという地位を与えようというもの。ルアン、グルノーブル、モンペリエなどが対象になる。
このアイデアは、リヨンのケースにヒントを得ている。つまり、最大限事務を共同化して統合を進めようという発想だ。その狙いは、これらのメトロポールに、地域の力を引き出す重要な役割を演じてもらうことだ。
私自身、ナント市で市長を含め長い間経験を重ねてきたので、メトロポールがどれほど地域全体の活性化に力を発揮できるかよく知っている。
同時に、ディジョンやランスのような、現在都市圏共同体CAを形成している他の大都市は、より権限の大きい大都市共同体CUになれるようにしている。

Q メトロポールの議会の議員は「兼用選挙方式fléchage※」ではない直接普通選挙で選ぶべきではないか?
※兼用選挙方式fléchage:コミューン間広域行政組織とコミューンの双方について別々に投票することなく、しかし一方で選挙民が自らの投票したコミューン議会議員(の名簿)のうち誰がコミューン間広域行政組織の議員となるのかが予め分かるような選挙システム。現在、広域行政組織の議員は、構成コミューンの議員による互選で選ばれているが、民主的正統性を強化する観点から、直接選挙を導入することが検討されている。その一つの解決策が「兼用選挙方式」。

A 2014年のコミューン議会統一選挙は兼用選挙方式でいく。兼用選挙方式によらない直接普通選挙をどうするかはその次の2020年の統一選挙に向けて検討する。メトロポールの権限、歳出規模、投資活動が拡充されるので、それを機に検討を開始したい。我々としては民主的基盤の強化を望んでいる。なので、そうした方向の議員修正が提案されるのであれば政府としても歓迎だ。

Q 4月7日、アルザス州と州内のバ・ラン県、オ・ラン県を統合する案が住民投票で否定されたが、ここからどんなことが言えると思うか。

A このプロジェクトは考え方としてはなかなか魅力的な案だったが、住民に十分に浸透せず政治家だけの案件に留まってしまった。次なるステップに進むためにはもっと住民を巻き込まないとダメだ。さもないと、構造改革は単に州・県の廃止の問題に見えてしまうし、住民も不安になる。

Q 今回の改革で、州はどんな面で発展をとげるのか?

A 州はこれまで実力を証明してきた。そして今、州は、経済発展や中小企業支援、イノベーションなどの分野でさらに強い権限を必要としている。州は当然、BPI公共投資銀行のパートナーでもある。

Q 州が担う職業訓練については、どんな仕組みにするか?

A 州の権限を強化し、この分野でリーダー役を担ってもらい、訓練計画の策定主体となってもらうことを想定している。一方、斜陽化した産業の再編が行われているなど困難な州については、我々としても州任せにはできないので、資格認定プログラムなどで支援する予定。

Q 経済分野ではメトロポールと州、どちらが優先的な力を持つことになるのか?

A 今回新設の「地域行政活動調整会議conférence territoriale de l’action publique」で合意点を見出してもらうことになる。プラグマティックに考えないといけない。例えば、ある大学都市に大学病院センターCHUがあれば、その都市、すなわちメトロポールはバイオテクノロジー開発に力を入れるだろうが、それは州全体にとっては必ずしも優先順位が高いとは言えないかも知れない。反対に、自動車産業のように関連事業所が複数の県にわたって立地しているような場合であれば、州の出番となるだろう。大事なのは誰が担うのが効率的か、であって、ドグマに陥ってはいけない。

Q コミューン共同体CCや都市圏共同体CAについてはどのような改革を?

A 基本的には、(これらに移管すべき義務的権限を増やすなど)アップグレードすることだ。都市計画は広域連合組織で作成することになっているが、その受け皿として不十分なものが多い。(全てのコミューンは課税型広域連合組織に属することが義務付けられているが、吸収され周辺部化するのを嫌い、近接の小コミューン同士、形だけの連合組織を作ることが多い。帰属が義務付けられる)広域連合組織に人口の下限要件をつけるべきではないか? これは国会での議論の焦点の一つとなるだろう。昨今、(財政が厳しくなる中で、できるかぎり自分で権限を抱えておきたいといった従来型のコミューンの)考え方も大きく変わってきた。今回の改革では本物の合理化を目指す。例えば、広域連合組織に道路に関する権限を移譲したのであれば、各コミューンには、道路所管課も残らない筈だ。(しかし実際はコミューン共同体の場合、広域行政組織と構成コミューン間の権限の仕分けを独自にできることとされているため、残った一部の道路のためにコミューンに組織が残っていることが多い。義務的に丸ごと道路権限を移譲するようなしくみに変えるべきだ。) 同時に、(周辺部の小規模コミューンだけで作る)形だけの広域連携組織とも決別すべきだ。

Q 富裕コミューンと貧困コミューンが組み合わせになるよう義務付けるべきでは?

A イル・ド・フランス州では、形だけの弱小広域連合組織が問題になっている。(互いに貧しい)クリシー・ス・ボワ市とモントフェルメイユ市から成る都市圏共同体では解決にならない。そこで今回は法案に、例えば都市圏共同体について、小冠エリア(パリ隣接エリア)では30万人以上、その外延部の大冠エリアのうち人口集中地区では20万人以上、というように人口の最少要件を定めた。是非実現したい。

Q 国からの交付金が減る中で、地方財政の見通しは?

A 地方公共団体も財政赤字の削減に貢献しなければならない。それぞれの団体が正義の下でこうした貢献に参加しないといけない。我々は地方公共団体に、歳入の安定と地域間の連帯の強化を保障する。同時に、国・地方間の信頼・責任協定pacte de confiance et de responsabilité entre les collectivités et l’Étatで、新たな財政調整について決めねばならない。国のお金を流すだけでは地域間不均衡を解消することは不可能だ。
またイル・ド・フランス州では、富裕県が貧困県を支援する新たな基金を作ることにしている。不均衡の深刻さを考えればこうした仕組みは不可避。

Q 県、州について、その他の課題は?

A 県については、社会保障財源の安定化が重要だ。全仏県連合会と分権担当大臣が、この問題について、私が設置した作業グループで議論している。
州については、前政権時代に課税自主権を大幅に失ってしまったので大変苦労している。こうした問題はすべて国・地方信頼責任協定で取り上げる。その結論は2014年の予算法案に盛り込む予定。

Q 「有毒」と形容される仕組み債が地方財政を揺るがしているが、問題の所在は?

A これは極めて複雑な問題。自ら進んでそうした仕組み債を借りた地方公共団体もあれば、不適切なアドバイスを受けて善意で契約をしてしまったケースもある。いくつかの団体は深刻な状態に陥っている。デクシアの関連資産は別の地方への融資機関に引き継がれたが、このような地方金融を担う機関の立て直しも必要だ。

Q 関係団体との協議を経て、改革の熱意が締め付けられてしまったということはないか?

A 法律は、各団体の利害を合算して作るようなものではない。そんなことでは改革など出来ない。今回の改革は(社会主義革命達成の日である)「偉大なる夕べ」でもなければ、地方分権改革「第三幕」でもない。現にある地方公共団体の構造をいかに簡素化するか、が何より問われている。我々は後退しない。この地方分権改革、何としてもやり遂げる。

(パリ事務所長 黒瀬敏文)